会員コラム

 コロナ巣ごもりの中で思い起こしたこと

2020年6月22日
高田 忠信

 現在、新型コロナウィルス感染症が蔓延し、その影響で外出を自粛せざるを得ない状況である。当初は通勤時間がいらないし、また電車に揺られて疲れる事もなくなる、と単純に歓迎したが、1ヶ月、2ヶ月と巣ごもりをするうちに色々な弊害が生じてきた。まず運動不足である。「コロナ太り」という言葉がよく使われるようになってきた。それから仕事上では、やはりオンライン対応になると配慮不足の影響も多々生じてきた。今後への良い経験であろう。
 このような状況の中で一つ思い起こさせる情報があった。
 毎年、「5月20日は世界計量記念日」である。
 我々の日常生活を守り、経済の発展及び文化の向上に資するために、計量の基準を定め、適正な計量を確保することが重要である、と再認識する日である。
 計量の定義は「物象の状態の量を量ること」とされており、「物象」として長さ、質量、時間、電流、温度、光度、面積、加速度、周波数、密度などがあげられている。
 単位としては国際単位系が使用されており、7つの基本単位(時間s、長さm、質量kg、電流A、熱力学温度K、物質量mol、光度cd)及び、この基本単位から組立てられた20の組立単位により構成されている。
 すべての科学的データはこれらを用いての分析結果より始まる。この基礎(土台)となる分析結果は非常に重要なものであり、その精度及び確度はすべての科学的論証の正しさの程度を左右する。
 このような意味で計量という分野を再認識することも、また楽しいものである。
 因みに計量の国家資格では、環境計量士(濃度)、環境計量士(騒音・振動)及び一般計量士がある。

 どくろマークが怖い

2020年4月24日
鈴木 孝

 2003年、国連の国際経済社会理事会において「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(GHS)が国連からの勧告として採択された。
 GHSの目的は、化学品の危険有害性情報の分類, 表示方法について国際的に統一されたルールにより、例えば、識字率の低い国でも, 化学物質を扱ったことのない子供でも, 世界中どこの国でも危険有害性が一目でわかるようなラベルや安全データシートで化学品の素性が分かるようにすることにある。
 私には化学品の危険有害性にまつわる思い出深い出来事がある。自社で廃棄物として捨てたクラフト袋の持ち込みが受入先に拒否されたのだ。
 その理由は、クラフト袋(これは原料が入っていたものだが)に危険有害性を表す“どくろマーク”が表示してあり、受入先の積み替え保管場所で展開検査を行う方が、触って良いのかわからず怖いので出さないで欲しいというのである。 化学会社の社員としてみれば、 どくろマークは見慣れたもので特別驚きはないであろうが、展開検査を行う方は触りたくなかったのだろう。クラフト袋は外袋であり、 化学物質の付着はないので安全だが、この一件を機にGHSの目的に立ち返り、自社で排出するこのようなクラフト袋は本当に化学物質の付着はないか, 受入先での処理方法が周知されているだろうかを考えて見た。そこで私は、廃棄物事故を防止するための自社管理規定の作成など、化学物質管理業務の社内仕組み作りを見直し、処分先を見直すこととした。 
 化学物質を扱う現場で働く方々としたら、たかが“どくろマーク”の絵表示かもしれないが、なぜ国連が絵表示を作ったか、その意味を立ち止まって考えてみて欲しい。GHSの絵表示のおかげで社内の化学物質の管理が刷新された会社も多いと思った。

 硫化水素の基準値って何ppm?

2019年7月10日
中丸 宜志

 「腐った卵の臭い」と記述されることの多い硫化水素臭だが、むしろ、「温泉の臭い」と表現した方がイメージしやすいことと思う。温泉街の風情を感じさせる一方で、濃度600ppmでは30分間のばく露で生命に危険をおよぼし、5000ppm(0.5%)では即死という猛毒のガスである。平成29年の厚生労働省の統計では、7件の労災事案(酸欠則関係)が発生しており、2名の方が亡くなっている。
 
 このような有毒ガスについて、多くの法令等で規制値が定められているのは当然であるが、では、その値は、どれぐらいなのだろうか。
 


 

 同じ物質なのに、何でこんなに規制値がバラバラなのか? という疑問を持たれた方は、化学物質の「リスク」が (リスク)=(ハザード※)×(ばく露量)で表されることを思い出していただきたい。
 
 許容濃度やTLV-TWAは、原則的に1日8時間の就業時間における作業者のばく露、管理濃度は作業環境測定基準等の法令に従って実施した作業環境測定(いわゆるA・B測定)の評価、TLV-STELは作業者が15分間にばく露する最大濃度、酸欠基準は作業中の突発的なばく露を、それぞれ対象としており、リスク評価の概念を見事に具現化しているものといえる。
 
 産業の現場で用いられる化学物質の種類は膨大なため、すべての物質にこのようなきめ細かい管理をすることは困難であるが、一律・杓子定規の管理となることは極力避けるべきであろう。
 
 なお、他の基準値と同様に、温泉施設ガイドラインの濃度も十分な安全率を見込んで設定されたものなので、余計な気を回すことなく、安心して湯治を堪能していただきたい。

※ハザード:その物質自体が持つ危険性・有害性のこと。

 アスベストは“静かな時限爆弾”

2019年6月14日
花井健夫

 アスベスト(石綿)は、静かな時限爆弾と言われている。
 天然の鉱物繊維で、1本の繊維の太さは、髪の毛の約5千分の1ときわめて細い。2005年に尼崎市の機械メーカーで石綿被害が明らかになり、今現在も毎年、全国で約1000人の方が石綿特有の「中皮腫がん、肺がん」が認められ、死亡されていると、会社名・死亡者数が公表されている。しかし、厚労省から毎年ケガによる死亡者数が978名(平成29年実績)と公表されているが、石綿による死亡者は、その中に含まれていないことがあまり知られていない。
 
 石綿による平均疾病発症年数は、40年後と言われ、そのため“静かな時限爆弾”と言われるゆえんである。戦後建設したビル等の解体が、2030年頃に集中する。1970〜1990年に、約30万トン/年輸入され、断熱性、耐候性に優れることから、石綿を含む下水管、壁材、スレート製屋根材が大量に製造され、使用されていることは忘れてはなるまい。
 
 一例であるが、愛知県内の中学校の体育館の解体工事で、3ヶ月立会していた担当教師が、数年経過した最近、中皮腫がんで死亡したと、マスコミで報道された。いかに有害性が強いかがわかる。
 
 ビル・工場等の壁、スレート屋根などに石綿が含有されていないか、至急調査してほしい。老朽化しているところは、特に危険である。
 
 地域に迷惑をかけないためでもあり、石綿を含む化学物質の管理が、さらに重要である。

 いろいろな場面で役に立つ“化学物質管理”

2019年4月11日
秋葉恵一郎

今から40年程前、住友化学㈱本社の農薬事業部開発部に勤務していた頃の話です。

 午後4時頃デスクの電話が鳴った。受話器を取ると、向こうからかなり慌てた男性の声が聞こえてきた。何事かと思って聞くと、「農薬運搬中トラックの荷台から容器が落ちて、道路上に農薬が大量にこぼれてしまった。きれいに掃除をしようとした仲間が気分が悪いという。どうしたら良いか?」と。

 私は製造受委託が担当だったので、電話の内容にアタフタするだけで、答えるすべがなかった。幸い隣に毒性担当の副課長さんがいたので、“ちょっとお待ち下さい、いま担当の者と替わります”と言って受話器を副課長さんに渡した。副課長さんは慌てず、「何という農薬がこぼれたのですか? それだったらPAMを処方したらいいですよ」と答えた。さすがだとただただ感心してしまった。

 PAM(プラリドキシムヨウ化メチル)は、有機リン剤農薬によって起こる中毒の特異的な解毒剤でした。当時住友化学は、複数の有機リン農薬を製造しており、PAMは農薬散布時の中毒の解毒剤として農村の病院を中心に常備されていた。

【毒物及び劇物取締法施行規則第11条の5(解毒剤に関する表示)】
「有機リン化合物及びこれを含有する製剤の解毒剤はPAM及び硫酸アトロピンの製剤」

 ところで、このPAM は1995年3月20日の地下鉄サリン事件で威力を発揮した。有機リン系毒薬のサリンの中毒防止薬として大量に用いられ、東京都内の在庫が尽きてしまったと言う。しかし、全国各地の在庫品が駅や空港で待機していた医療関係者の人海戦術によるリレーで東京都心へ輸送され、600人以上の被害者の命を救ったという話があります。
 
 化学物質管理の知見は、このようなのっぴきならない状況下で大きな社会的役割を果たしてきたことも知って頂きたいと思います。

 1級生産士の資格から始めた化学物質管理士への道

2019年4月11日
伊藤 雄二

 実は、技術士会近畿本部の化学部会と繊維部会との合同講演会がありまして、日本における化学物質管理の現状と課題と題して講演をさせていただきました。講演のあとで1級生産士のことを聞かれました。

 私は、15年前に1級生産士の資格を取得して、それから始めて、今、化学物質管理士の資格認定に至りました。トッププロを目指してみたい皆さんに、1級生産士という資格は化学物質管理士になるための相性の良さを知ってもらおうと思います。

 1級生産士という資格を知ったのは、20年前の50歳でした。人事から自己啓発という通信教育の一覧表の配布があり、1級生産士の資格が気になりました。興味を引かれた点は工場長が務まるというキャッチフレーズでした。内容の肝は、意思決定理論とその実践にありました。工場長には縁はなかったけれども、空振りにめげず、新規化学品開発という固有技術1本槍の考えから、この管理技術を活かして、化学品総合管理体制の構築に活かしました。この実践と並行して、もう一つ、毒性学の習得にも10年をかけ、ついに、欧州REACH法が意図した締出し法に打ち勝てることが出来ました。

 今は、セカンドライフをプロの企業コンサルタントとして活き活き過ごそうと考えています。その中身は、化学という固有技術に磨きをかけ、1級生産士の管理技術を駆使し、毒性学で得た評価技術の三つを組み合わせ、化学物質管理士資格の制度設計にも活かしています。これらの資格の相性は良かったと思います。ご参考になれば幸いです。

 動物試験の今昔

2018年9月6日 
代表理事 林 誠一 

 SDSのシート中に記載されている毒性データを眺めていて農薬開発研究所で働いていたころの話を想い出した。

 当時、皮膚刺激性の試験はウサギを用いて実施されていた。ある時、試験終了後の動物はどうなるのか聞いたところ、一度使った動物は二度と使えないので、殺処分にしてしまうのだと。そこで、家で飼えば子供たちも喜ぶだろうと考え、一羽もらいうけた。最初は家の中で飼い始めたが、そこら中に糞はするし、電話線を齧って使えなくするし、困って庭に放し飼いにした。自分で樅の木の下に巣穴を作り始めたのを観察すると、土を運び出す仕草が可愛い。前肢二本で抱えるように押し出す。そのうち近所からウサギの家とか呼ばれるようになった。

 安全、毒性試験では、世界中で毎年膨大な数の動物が犠牲になっているとされ、動物実験反対運動が欧米各地に広がった。

 動物実験の国際的流れはRsの原則を基盤とすべきとなってきている。Rsの原則とは、Replacement(動物を用いない方法に置換)Reduction(動物の使用数の削減)、Refinement(苦痛の削減)のこと。当初、化粧品で本格化し、医薬品、医療機器、化学製品等の安全性試験、医学研究にも拡大している。

 動物を使わない代替法の一つはそのヒトの細胞を使うin vitro方法があり、数多くの長所を備えているという。また、化学物質の毒性を予測する方法として、in silicoの活用も幅広く行われている。

 国の偉大さと道徳的発展は、その国における動物の扱い方で分かるらしい。